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危機に瀕する市民の自由――自由の実質的価格とは
 山形浩生さんが脱帽したという英語の記事を訳してみた。
自由のためならテロで多数の人が死んでも我慢すべきだ、というのを逃げ口上やごまかしなしにここまではっきり断言する潔さと勇気は、日本のちんころマスコミはもとより、市民派を標榜するヒョーロンカ諸氏だって持っていない。「So be it.」ぼくの立場とはちがうけれど、それでもこの強さには心底敬意を表するしかない。

「So be it.」は「それならそれで仕方がない」という意味。直訳すれば「なるようになれ」という投げやりな言葉。それは僕らが何もしなければそうなるという警句でもある。

 日本は某社民党のように、議論しただけで批判が起こる国でこうした記事を書くだけで非難の嵐になるだろう。でも、議論は対立する二つ以上の論陣があるほうが進展する。みんなが同じ意見しか持たなかったり、思っていても意見を表に出さなかったりすると、幼稚なまま。

 いまどき絶対的な正しさを信じている人はいないと思うけど、ならば現実的な正しさは何かと言われれば、それは議論を経ても通用する、反論に耐えられる正しさだ。もし反論ができなければ、あなたの正しさはその程度なのだ。

 山形さんがThe Economistを評価するのは日本の言論界のように正しい論説を押し付けるからではなく、一定の理屈に基づく議論を提示して読者に判断を委ねるからで、読者もまた自分で正しさを判断できる度量を持つからである。

 あなたは戦前の治安維持法のような予防拘禁を許せるのか? 以下の主張の内容それ自体も重要なのかもしれないけれど、その主張に対して、あなたはどう反応するか。現実に力を持つのは、その部分なのだ。

危機に瀕する市民の自由――自由の実質的価格とは
2007年9月20日 The Economist 紙媒体より


 自由を守るために多くの生命が代償となるのは、何も戦場に限った話ではない。



「敵は自由を嫌う」2001年9月11日、アメリカが攻撃を受けてすぐジョージ・ブッシュは米議会での演説でそう言った。しかし、アメリカや他の西洋の民主主義国家は「テロとの戦争」の間、自国でそれらの大切な自由をどううまく守ってきたのだろうか?


 今週から連載した記事で示そうとしてきたように、過去6年間安定して自らを自由における勝者と自認する国々でも市民の自由が侵されているのが見られた。恣意的な逮捕、裁判なしの無期限勾留、「言い渡し」、人身保護令状の停止、さらには拷問まで――誰がこのようなことが可能だと考えただろうか?


 絶望的な時期にはそうした治療法も必要なのだと各国政府は主張する。影に潜み、不意に止まって化学や生物、核の兵器を探そうとする殺意にまみれた新しい敵に直面している。これがかつての決まりや自由を時代遅れにさせた。さらには「国家の生命が脅かされる公的な緊急事態には」いくらかの自由を停止を国際人道法が提供しないことがあるのだろうか?


 この主張には大きな力がある。ああ、このような主張にはいつも力があるのだ。これは大昔から政府が弾圧的な権力を新たに取り込むのを正当化してきた。第二次世界大戦の間、民主主義国家は自国民をスパイし、検閲を課して情報を引き出すのに拷問を用いた。アメリカは日系アメリカ人の全住民を拘禁した――今では致命的な誤りと見なされている判断である。


 アル・カイダとの戦いを第二次世界大戦や冷戦などのような戦争だと見なす人々がいる。しかし、前者の比喩は誤りだし、後者の教訓は望むところではない。


 第二次世界大戦のような実際に武力が衝突する総力戦は数十年と続くことはなく、だから民主的な自由の縮小も短命に終わる。しかし、誰にも冷戦が終わるかどうか知りえなかったので(それは40年ほど続いたのだ)、民主国家は概して冷戦に社会の望ましい状態を変えさせはしなかった。この選択が賢明だったのは西洋にこの数十年の間に人々へ自由を与えたからだけでなく、西洋が持つ自由が全体主義という敵との闘争において最も強力な武器になったからでもある。


 テロとの戦いを戦争とする以上、それは冷戦のようなものとなる――数十年間と続く戦争である。現実の脅威が存在してるとはいえ、どの場面においても安全保障のために自由を切り札とさせれば文明世界がどんなものでどうあれと望まれているかの感覚を蝕んでいくことになるだろう。


 自由主義者が市民の自由について説明するとき、不愉快な手段はテロとの戦いに何だかんだいって役立たないとときどき断言する。The Economist誌はリベラルだが、この主張には反対だ。秘密警察に市民をスパイさせ、裁判なしに拘束させ、情報を引き出すために拷問させれば、テロリストのたくらみをくじきやすくなることを我々は認める。これらの手段を控えるのは片手を背中に縛られてテロリズムと戦うのと同じだ。しかし、まさにこのようにして――片手を背中に縛られた状態で――民主主義国家はテロと戦うべきなのだ。


 間違いなく最悪のケースである(そして我々の連載の最初の記事のテーマである)拷問を見てみよう。有名な思考実験はこう問いかける。あなたはカチカチと音を立てている核爆弾がどこにあるか知っているテロリストをどう扱うだろうかと。理屈ではあなたは数十万の命を助けるためにその男を拷問するだろうし、実際あなたはそうするだろう。しかし、これは作り話のジレンマだ。現実の世界では、警察官は拷問にかけたい多くの(一人ではない)容疑者がいかなるたくらみを知っているか、それにどれだけの命が懸かっているのかを分かってることなんてめったにない。唯一確かなのは、カチカチと鳴る爆弾の論理があらゆる人の、したがって全市民の、苦労して手にした権利をより大きな善のためにという名目で国家に踏みにじることを許すような危険な先行きへと導くことである。


 人権は文明化されたことの結果の一部である。犯罪を実行する前に疑わしいテロリストを――そして潜在的な殺人犯やレイプ犯、児童虐待も同様に?――閉じ込めればおそらく社会はより安全になるだろう。いまテロとの戦いの名において採りいれられていくこの芳しくない実践の結果で多くのたくらみはくじかれ、数千の命が救われる。これらの実践が自由を維持するために断念されれば多くの命が犠牲になる。それならそれで仕方がない。
ふらいんぐ・よーよー 管理人:飛中漸